これからデイサービスを起業・開業が決まっている方や起業・開業を考えている方向けに全体の工程を一気にまとめてみました。
少々長い文章になりますが、起業開業に必要なエッセンスが詰まっているのでぜひご覧いただければと思います。
各項目の細かい行程については、ブログの開業カテゴリの各記事にまとめています。
タイトル欄にリンクを張り付けているのでそちらを確認してください。
法人格の種類
介護保険事業を運営するには法人格が必要です。法人格というのはいわゆる『株式会社』ですとか『社会福祉法人』などといわれる会社組織のことです。
文字通り組織が人格をもつことになり、法人名義で口座を作ったり、賞罰を受けたりできるようになるのです。
法人格であれば営利法人であっても、非営利法人でも構いません。
設立が比較的簡単なのが下記の2つの法人の形態です。
株式会社
最も一般的な法人形態。
設立費用は25万円ほどで可能です。
出資者が出資額に応じて株式を取得することになります。
この株式数によって議決権が付与され、過半数を持った人間が法人運営の方向性を決めることができます。
この株式は売買が可能で法人のM&Aなどはスムーズの行えます。
株式会社のメリット
- 有限責任である (※負債を株主が負担する必要がない)
- 古くから使われているので馴染みが深く安心感がある
- 株式公開が可能である
- 議決権がはっきりしており、内紛などが起こりにくい
- 法人のM&Aなどがやりやすい
合同会社
最近増えている法人の形態です。
設立費用は最低10万円程度(※資本額による)で可能。
合同会社の特徴は出資額にのって議決権が決まるわけではなく、社員(一般の会社員という意味ではなく、合同会社での株主的存在)が公平に業務執行権を持つことになります。
つまり、同等の力をもった社員がみんなで会社を運営していく会社ということになります。
社員は夫婦のみで始めれば内紛の心配はありませんが、社員数を増やしてしまうとどうしても内紛の心配が付きまといます。
合同会社のメリット
- 有限責任である
- 決算書の作成義務がない
- 設立費用が安い
- 株主総会がないので意思決定が早い
- 利益配分が自由に行える
法人の設立
設立する法人の種類が決まったら法人設立の手続きに入ります。
定款の作成
法人の設立には定款という法人ルールブックのようなものを作成が義務付けられています。
定款には会社名や事業目的などを記載する必要があります。定款への記載は必要ありませんが企業理念や事業指針についてもここで決めておきましょう。
また資本金額や出資者も確定させておきましょう。
定款が出来上がったら公証役場で承認をうけましょう。
本店の管轄内である必要がありますので事前に調べて予約したうえで出向く必要があります。
設立の登記
定款の承認を受けたら管轄の法務局へ出向き、商業登記窓口に申請書類を提出します。
登録免許税や役員の印鑑証明書などを添付する必要があります。
必要書類の詳細はこちらで確認してください。
通常10日間程度かかります。
登記が完了すればはれて法人が設立し、謄本を取得できます。
法人が設立したら印鑑登録や口座の開設が可能のなりますので作っておきましょう。
行政への手続き
法人の作成が終わったら起業・開業までの間に下記の税務署自治体や年金事務所へ届け出が必要になります。
社労士などに頼むという方法もありますが時間に余裕があればご自身でやられることをお勧めします。
- 国税について税務署
- 地方税について地方自治体
- 社会保険について年金事務所
- 労働保険について労働基準監督署
※すぐに従業員を雇わない場合必要ありません。
デイサービスのコンセプトの設定
さて、無事法人の設立が終わったら、いよいよどんなデイサービスを起業・開業するのかを考えていきましょう。
考えることは下記の4つです。
- どんなご利用者様をメインターゲットとするのか
- 他にはないどんな特徴があるのか
- 利用定員・提供時間・取得する加算など
- どのような間取りや設備で実現するか
まずはご利用者様のメインターゲットについて、性別や年齢、ADLや持病について設定していきます。これはある程度詳細なイメージを作ったほうがその後のコンセプトづくりに生かすことができます。
メインターゲットが決まったら、どうやってその方を喜ばすことができるのか、その特徴を考えていきます。
実現可能か不可能かよりも本当に喜ぶかどうかを考えてブレインストーミングしてみてください。
初めてデイサービスを起業・開業される方はなかなかイメージがわかないかもしれません。
そういった場合は、すでに成功しているデイサービスに見学に行ったり、関係者に話を聞いてみることをお勧めします。
成功しているデイサービスには必ず明確なターゲットや特徴が存在するはずです。
さて、ある程度店舗のイメージが出来上がったら施設の定員数や提供時間など細かい部分を決めていきます。
最後にこれらのコンセプトを実現するために必要な設備や間取りについて考えていきます。
詳細な図面は必要ないですが、おおざっぱな間取りや設備の位置なども作成できるとよりコンセプトが具体化し、他者に対しても説明がしやすくなりますのでお勧めです。
開業物件の取得
デイサービスを開業するためには物件が必要になります。
物件の取得方法には2つあります。物件を建てたり買い取ることによる取得と賃貸契約による取得です。
物件を建てたり買い取ったりすることによる取得の場合、物件の間取りを自由に作ることが可能になるのでとても簡単に基準をクリアできることになります。
ただし、そこまでお金を用意できる方も少ないでしょうし、不動産は値下がりのリスクもありますので、なかなか踏み切れないかもしれません。
基本的に賃貸物件を使ってデイサービスの起業・開業を行うことをお勧めします。
商圏分析
まずはデイサービスを起業・開業するための地域を決める必要があります。
ご自身の地の利のある場所でと考える方がいらっしゃいますが、それだけで開業地を決めてしまうのは危険です。
要介護者や高齢者の数や率、ライバルとなるデイサービスの数について調査する必要があります。
地方自治体にデータが必ずありますので事前に調査しておきましょう。
出店地域に関しては狭すぎてもいけません。ある程度地域を広げておかないと希望の物件はなかなか見つかりません。
半径5Km圏内くらい見ておきたいところです。
また、地域の交通状況についても調べておきましょう。
デイサービスの送迎スケジュール管理はとても難しいものです。
朝夕の渋滞状況や踏切や河川など交通の疎外となるものなどがないか調べておきましょう。
希望物件の見つけ方
出店地域が決まったら希望の物件を探す作業に入ります。
やみくもに歩いて探す方法もありますが、それではさすがに効率的ではありません。
地域の不動産屋に条件を伝えて探してもらいましょう。
希望物件の条件表を作って地域の不動産屋を回って依頼をすれば顔も合わせるのでやる気を見せることもできるでしょう。
条件表には必要な広さ、賃料の上限、階数、駐車場の有無などをまとめておきましょう。
また、建物の広さや用途によっては用途変更が必要になったり消防設備が必要になったりしますのでその辺の条件も書いておくのも良いでしょう。
物件の内覧
条件に合った物件が見つかったら実際に足を運んで見に行かなければなりません。
実際現場で見てみるとより詳細なイメージができるようになることでしょう。
柱の圧迫感、天井の高さ、物件の形、図面ではわかりにくいところを確認していきます。
意外に多いのがもらっていた図面から増改築などがされていたり、設備が撤去されていることがあります。
図面と実際の物件を見比べながら確認していきましょう。
また、周りの道路の広さや交通状況、大通りまでの道なんかも確認しておくとよいでしょう。
最初の内覧で気に入ったら次からはリフォーム会社や建築会社を連れて、より詳細に調査していきます。
リフォーム会社は介護事業所のリフォーム経験があるところを選んだ方が良いです。
介護事業所は法律で様々な条件を課されていますので、慣れている業者のほうが安心です。
この内覧の目的はリフォーム費用の概算を出すことです。その費用や賃料などを勘案して契約するかを決めるわけですから時間がかかってもしっかりと調査してもらいましょう。
ポイントは壁や床、天井の構造などリフォームに影響が出るような躯体に関する調査や水回りや給排水の関係、ガス電気のキャパシティの確認などです。
いざリフォームしようというときに水道管の取り換えが必要になって数百万円かかったなどという話を聞いたことがあります。
物件の契約と交渉
リフォームの見積もりが上がったら賃貸契約を進めていくためオーナーとの交渉に入っていきます。
賃料や敷金礼金、保証金、フリーレント、更新の頻度などお金に関わる部分はしっかりと詰めておきます。
また、躯体に関する工事が必要な場合、どちらが負担するかや途中で補修が必要になった場合の費用負担についても話し合いが必要です。
ただ、直接オーナーと交渉することは少なく、不動産管理会社が間に入ることがほとんどです。
言った言わないの問題になることもありますので、できるだけメールなど文章で残しておくことをお勧めします。
建築・リフォームの管理
賃貸契約を行ったらすぐにでもリフォームに入りましょう。
設計などの打ち合わせに関しては賃貸契約の前からできることですので、契約前にできる限り進めておきます。
下記にある設備基準をクリアするような設計にする必要がありますので必ず確認しておきましょう。
壁紙や床の素材などこだわりがあるのであれば、積極的に決めさせてもらえるように以前に話しておきましょう。
リフォームが始まったら進捗状況を見に行くためにも必ず頻繁に足を運んでください。
リフォームの遅れで開業が遅れるケースは非常に多いです。
1か月遅れるだけで人件費や家賃を考えると相当の損失になります。
起業・開業資金の調達
デイサービスのコンセプトや開業のための物件に目途がついたら資金調達を行わなけらばなりません。
お金がなければリフォームを行うことも人を採用することもできないのです。
銀行借り入れなどは慣れていない人にとってはハードルが高いように感じますが、誰もが起業当初は初めての借り入れになるものです。
資金調達の種類
- 自己資本
自分貯めたお金や家族からの借り入れで賄う資金です。多ければ多いほどいいです。
銀行借り入れを行うにも自己資本がどのくらいあるかが審査されます。
起業・開業に必要な資金の3分の1くらいは自己資金で用意したいものです。 - 友人・知人からの借り入れ
あまりお勧めできませんが、お互い信頼関係の築かれた間であれば余裕資金としてみることができます。
事前に借り入れにするのか出資にするのかや返済計画をしっかり立てたうえで借りましょう。 - 銀行融資
最も良い資金調達が銀行融資です。銀行でも都市銀行から地方銀行、政府系金融機関など様々存在します。
創業時の融資に関しては都市銀行などはなかなか融資が出にくい傾向があります。
日本政策金融公庫や地方銀行などは比較的創業時の融資が緩いので打診してみましょう。
採用
デイサービスの起業・開業には経営者以外にも必ず人員が必要になります。
また、デイサービスは法律上必要な人員基準というもの(※下記参照)もあります。
まずはいつにどの職種がどのくらいの人数必要なのか、給与はいくらくらいに設定するのか、正社員なのかパートなのかなど採用計画をきっちりと立てておきます。
それをもとに募集を行っていきます。
募集広告
採用を行うにはまず募集の広告を出さなければなりません。
行政が運営するハローワークから民間が運営する募集サイトや新聞折り込みなど幅広い媒体があります。
とにもかくにもハローワークに募集を出すことから始めましょう。
ハローワークは一度掲載されると簡単な更新のみで無料で常時出しておくことができます。
まずはハローワークで募集記事の書き方の練習や給与の設定に対する反応を見てみましょう。
あまりに応募が少なければ給与の設定を変えるなどの対応を行います。
開業までに必要な人員が一向に集まりそうにない場合、ほかの媒体への掲載も検討してみたください。
採用面接
採用への応募があったら続いて面接を行います。
面接では応募者の人柄ややる気、経験などを踏まえて採点していきます。
採用したもののすぐにやめられてはしょうがないので職歴を転々としてる方に関しては退職理由なども聞いておきましょう。
そして希望の職や勤務形態などを勘案して採用の合否を決めていきます。
昨今介護事業は人不足が叫ばれています。事業者側選ばれるという意識をもって面接に臨んでください。
指定申請
いよいよデイサービスの起業・開業するためには各行政に申請を出して『指定』を受けなければなりません。
その指定を受けるための基準として大きく分けて人員基準と設備基準というものがあります。
この基準をクリアするための採用やリフォームを終えたうえで、指定申請書を行政に提出することで指定が受けられるのです。
申請書の提出は開業予定月の前々月末までに行わなければなりません。
行政では書類の手直しを求められることが多いので、なるべく早い段階で相談に行き、余裕をもって申請の手続きを行いましょう。
人員基準
管理者 | 対外的な管理責任を負う管理責任者
常勤でなければならない |
生活相談員 | ご利用者様の介護計画や生活の相談に対応する
提供時間中1名以上の生活相談員の配置が必要。 |
看護職員 | ご利用者様のバイタルチェックや医療行為を行います
上記業務が完了できる程度の時間配置しなければなりません |
機能訓練指導員 | ご利用者様の機能訓練計画や通所介護計画の作成を行ったり、リハビリを実施します
上記計画書を作成できる時間配置しなければなりません |
介護職員 | 現場でご利用者様の介助を行います
利用者15人以下の場合は1名以上、そして5名増えるごとに1名の介護職員を増やす必要があります |
設備基準
食堂及び機能訓練室 | 普段ご利用者様が活動されるスペースです。 両方合算して定員1人当たり3㎡のスペースが必要になります。定員10名であれば30㎡以上のスペースが必要になるということです。 食堂や機能訓練に使う器具を置くスペースは広さに参入できますが、キッチンや冷蔵庫物置などのスペースは参入させることができません。 |
相談室 | ご利用者様やご家族の相談を受けるためのスペースです。落ち着いてデリケートな内容の話ができるように外部に音が漏れないようにしなければなりません。 |
静養室 | 体調が悪くなられたり、臥床が必要な方が静養されるスペースです。 定員や平均介護度によって必要な数は変わってきますが最低1部屋必要です。 |
事務室 | 職員が請求業務や報告書の作成・管理するスペースです。 個人情報保護のため、利用者に関する書類を保管するための鍵付き書庫の設置が義務付けられています。 パソコンや通信機器なども必要になります。 |
消防設備 | 消防法で定められた消防設備が必要になります。各消防署に必要な設備を確認する必要があります。最低限誘導灯や消火器は必要になります。 |
その他 | 提供するサービスにより入浴し設備や厨房などが必要になります。 |
起業・開業前の営業
デイサービスの指定を取得したからと言ってご利用者様が勝手に集まってくるわけではありません。
指定申請書の提出が終わればすぐに営業活動に入らなければなりません。
基本的にデイサービスの営業は直接要介護者へ向けて行うことはありません。
ケアマネジャーを通しての営業ということになりますので、何よりもまずはケアマネジャーへの知名度を上げることを優先していく必要があります。
営業ツールの用意
営業媒体として最も効果を上げるのがパンフレットやチラシです。
要介護者が見てわかりやすいように、特徴や売りを写真付きで大きく紹介するパンフレットやチラシを作りましょう。
ポイントとしてはケアマネジャーがパンフレットやチラシを手に持ちながら高齢者に対して説明しやすいことが大事です。
ホームページは直接高齢者がご覧になることはまだほとんどありませんが、ご家族やケアマネジャーが見ることを念頭に作成しておきます。
地域の無料情報誌などに掲載をしている事業者もありますが、私の経験上あまり効果をもたらさないように感じます。
ケアマネジャーへの挨拶
介護保険事業において最も基本的かつ重要な営業方法がケアマネジャーへ営業です。
さらに開業ということでまずはケアマネジャーに施設の名前と特徴を覚えてもらわなければなりません。
エリア内にある居宅介護支援事業所をすべて回り、オープンすることを伝えて回ります。
できるだけ印象に残るように明るく元気よくごあいさつしてください。
写真の多く入ったパンフレットなどを作成してお持ちして、下記の内覧会にぜひ来ていただけるようにお誘いかけをします。
内覧会
内覧会ではデイサービスの起業・開業前にケアマネジャーやご利用者様に施設内を見学してもらいどんなサービスを受けられるのか見てもらいます。
開業前に1週間くらい時間をとって開催しましょう。
内覧会にいらっしゃっていただいたケアマネジャーは必ずご利用者様をご紹介いただけます。
施設のより所を存分に見てもらえるように職員にも元気よく対応するように指導しておきましょう。
内覧会では実際のサービス(入浴・リハビリ・食事)の実演ができるように準備しておきましょう。
来場記念として施設でお出しする予定のおやつを用意したりすると印象に残るかもしれません。
ポスティング
開業前の営業方法としてポスティングがあります。
このポスティングは数少ない直接要介護者にアプローチする営業方法です。
施設の近隣の集合住宅や住宅地を回り開業のお知らせをポスティングしていきます。
また、内容に関しては要介護者が直接手に取って理解できるように介護保険制度やデイサービスについても分かりやすく説明する必要があります。
私も必ず開業前に4000部程度ポスティングを行いますが、数件のご利用者様の獲得につながっているのでチャレンジしましょう。
グランドオープン
ここまででいよいよグランドオープンとなります。
オープンまでもとても手間のかかる続きや準備が多かったですが、オープンしてからはまた違った忙しい毎日が待っています。
ただ、オープンしてからは実際のご利用者様と携わる中での忙しさになるので私なんかはさほど苦には感じませんでした。
オープンしてからはまずはご利用者様に喜んでもらえることだけに集中してください。
そうすれば必ず成功が待っていることでしょう。
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